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――がしっ。
引きかけた手を、蒼に掴まれた。
「ううん、嬉しいよ。一緒に走ろう。全力では走れないけど、まだ走ることそのものを諦めるには早いよね」
私はその反応に驚いたが、すぐに驚きは消えていった。
顔が熱い。また涙が出そうだ。
「今度はあんな、風香を置いてくような走りはしない。一緒に、走ろう」
こんな事を大真面目な顔で言う、蒼は一体なんなのだろう。
込み上げる思いを無理やり振り払おうと、私は握られた腕を振り払おうとする。
……が、出来なかった。予想以上に固く握られていたらしい。
「もう……馬鹿!ほんと、馬鹿っ!!」
私はどうにもならない気持ちを声に変え、今度こそ力いっぱいに蒼の手を振り払った。
***
風が吹いている。
二人が乗る自転車は、追い風を孕んで来た道を辿っていく。
失ったものは戻らないけれども。
失ったことで、見つけられるものもある。
失ったものと、見つけたものと。
両方を胸に抱え、車輪は未来へと回っている。
風が、吹いている。
蒼風センチメンタル…fin
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