ここで、風を感じて

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こんっ、こんっ、こんっ。 踏み出す足が地面を叩く、無機質な音が響いている。 薄暗い景色が幾多の線となって後方へ消え、走る躰は風を纏う。 常なら心地よいそれも、今の私にとっては汗ばんだ躰を芯から冷ます不快なものでしかなかった。とにかく、今の私は一刻を争う。あらん限りの力を振り絞り、薄暗い階段を一弾飛ばしに駆け上がる。 「あの、馬鹿……!」 普段から陸上部の一員として走ることには慣れているが、それでもグラウンドから校舎の四階まで全力で駆け上がるのはなかなかに堪えた。それでも、悲鳴をあげる自分の躰に鞭を打ち、私は必死に足を動かし続ける。 荒い呼気の有機的な音が、階段と足の奏でる無機的なビートに混じる。 すれ違った生徒たちには、当然怪訝な目で見られた。 だが私はそれら一切に気を払うことなく、ただひたすらに前へと、上へと、目的地を求めて駆け上がった。
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