ここで、風を感じて

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明暗の急激な変化に順応する一瞬で、私の見る景色は一変する。 コンクリート壁に囲まれた無骨な廊下のそれは既になく、田舎とも都会とも言い切れない平淡な街を一望できる雄大なものへと移っていた。 雄大といっても当然フェンスによって仕切られた区画であり、一望といっても狭い範囲であるのだが、基本的に学校の日常においてこのような景色を拝む機会はあまりない。相対的に感覚が誇大化されるのは仕方の無いことだった。 そんな特設展望台の“さらに外”から、拍子を抜かしにかかる軽い声が、肩で息をする私を出迎えた。 「あれ、風香じゃーん。こんなところで何してんのさー?」 あまりに悪意も素っ気もない声を耳にして、私の四肢はへなへなと力を失い、その場へと崩れた。 「何、って……蒼、あんた、何で、そんなとこに……!」 息も切れ切れに、私はへたり込んだまま“外”の少年へと疑問を投げる。 よく見知った彼は少しだけ申し訳なさそうな顔を向けると、フェンスを飛び越え“内側”へと飛び込む。 身軽に着地する姿は、どこか優美な印象を与えた。 「ああ、ああ。それでそんな慌てた様子だったんだね。安心して、別に自殺とか考えてここにいるわけじゃないから」 私が『蒼』と呼ぶ彼は、私のすぐ傍まで歩いてくると、そっと手を差し伸べる。だが私はあまりに平然としたその態度がどこか気に食わず、それを無視して目を逸らして見せた。
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