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「それで、何であんなところにいたの?」
数分後。
ようやく息を整え落ち着きを取り戻した私は、改めて蒼へと問い直した。蒼は苦笑すると、ポケットから薄汚れたハンカチを取り出し、ひらひらと振って見せた。
「これが柵の外側に落ちてたんだよ、昼によくここでご飯食べてる生徒いるしね。後で職員室にでも届けようと思って」
「……それだけだったら、フェンスの外側からあんなに身を乗り出さないと思うけど?」
「あ、見てた? あはは、参ったな……」
蒼は苦笑し、ハンカチをポケットにしまう。私はフェンスに腰掛けて腕を組む姿勢のまま、軽く蒼を睨んだ。
そう、私は陸上部の練習中、たまたま蒼の姿を見かけたのだ。
その時の蒼は腕を後方いっぱいに伸ばしてフェンスを掴み、体を斜めに倒して足場のない空中にまで身をさらしていたのだ。例えるならば『ひとりタイタニック』とでも呼べばいいだろうか。
とにかく、屋上でそのような不安定な格好を晒す友人を心配するのは当然のことである。慌てて練習を放棄し、駆けつけて今に至る。
それに。
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