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仮に自殺しようとしていたとするならば、心当たりも、あった。
「死ぬつもりじゃなくても、あんなのちょっと手を滑らしたら本当に死んじゃうよ。絶対にダメだからね」
「……うん、心配かけてごめん」
今度は素直に謝り、少し伏し目になる。私は目が潤んでいることに気付き、慌てて目をこすった。
腕に滲んでいた汗が目に入り、痛い。かえって涙が溢れ出てきそうになった。
「……タオルを取った時にさ、すごくいい風を感じたんだ。それで空を見たら、突き抜けるように綺麗な青空。思わず見惚れちゃってさ」
蒼はフェンスに手を掛けると、呟くようにぽつりと漏らした。私は沁みて痛む目を意志の力で無理やりこじ開けると、その目を蒼の方へと向けた。
「蒼……」
「大丈夫、僕は大丈夫だよ。今までがオーバーペース過ぎたんだ。これからはゆっくり、歩いていけばいい。そうでしょ?」
蒼は何でもないような笑顔を向け、明るい口調で言った。だが、私は何も言葉を返すことが出来ない。こんな時どんな返事をすればいいのか、どんな返事をするのがいいのか、私にはわからなかった。
蒼は強い。
そう思いながらも、私は蒼の笑顔に脆さを感じていた。
「ねぇ、風香。部活抜けちゃったんだよね。だったら、ついでにもう少し僕と歩かない?」
私が返答に困って黙っていると、蒼はポケットから飴玉を取り出し、私に差し出しながら言った。鮮やかなカラーのスマイルマークがロゴとして描かれた、どこか彼に似合う包装の飴玉だ。
しかしポップな外装に反して、“抹茶味”など意外なことが書かれている。
「……おばあちゃんか!」
なんだか悩んでいるのがおかしな気分になり、自分でもよくわからない突っ込みを入れた。
だが蒼もその様子にクスリと笑ったので、私の気はほんの僅か、曇天に差す一筋の光のように晴れた。
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