ここで、風を感じて

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蒼と私は幼少時からの幼馴染みであり、元陸上部の仲間でもある。ほんの数か月前までは一緒にグラウンドを走っていた。 私はどこからともなく吹いては抜けていく風を感じるのが大好きで、風を感じることの出来る“走る”という行為が好きだった。蒼とは同じ喜びを共有する同士であり、昔から公園や道路、果ては知らない場所まで走り回って遊んでいた。 出会いがいつごろ、どのようなものであったかは、もう覚えていない。 私たち二人はいつも走っていて、纏う風の心地よさを全身で感じていた。 高校に上がってもその関係が変わることはなく、私たちは陸上部の一員として相変わらず走り続けていた。 だが、この頃から蒼の考え方が変わった。 速く走れば、その分だけもっと違う風が感じられる――そう考えて、無理な練習を繰り返した。その様相たるや、普段の穏やかな性格が信じられないほどの豹変ぶりで、誰が止めても限界を超えて練習を続けた。 結果、蒼は足に重大な故障を抱えることになり、陸上から離れざるを得なくなった。私は最初から最後までずっと、ただそんな蒼を見ていることしかできなかった。 何も変わっていない、そう思っていたのは私だけだったのかも知れない。 悔やんでも仕方ないことは分かっている。 でも蒼の文字通り“暴走”を止められなかったという事実は、私の心のどこかに今も引っかかり、重くぶらぶらと垂れ下がり続けていた。
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