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暮れ始めた夕陽の道を、一台の自転車が行く。
昼間の快晴は、未だ雲一つない鮮やかな茜空という形で持続している。
「ちょ、ちょっと蒼! スピード緩めてよ!」
「何言ってんの、これぐらい出した方が気持ちいいでしょ!」
「“ゆっくり歩く”んじゃなかったわけ!? 捕まっても知らないからね!」
「その時は風香、乗ってる君も同罪だよ!」
一台に二人分の影を乗せ、二つの車輪は緩い下り坂を快速で転がる。
道幅が広いので通行人にぶつかる心配はなさそうだが、わき道からの飛び出しがあれば避け切れない可能性は十二分にある。よい子は決して真似をしてはいけない。
「お願いだから、蒼、緩めて!!」
風を切って、勢いよく走り続ける自転車は進み続ける。蒼が前に座って壁になっているとはいえ、陸上部のランニングウェアのまま飛び出してきた私にこの風の直射はいささか以上に辛かった。
具体的に言えば、非常に寒いのだ。風に吹かれるのが好きな私にも、限度はある。
「えー……仕方ないなぁ」
蒼は渋々ながらスピードを緩めると、そのまま進路を変えた。
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