プロローグ

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満開に咲き誇った桜が、 心を揺さぶる。 生暖かい風に乗って薄紅の花びらが頬を掠めるたび、 思い出すのはただ一人の顔。 忘れたくても忘れられない、 心の傷みだ。 あの頃、僕はまだ幼くて。 君の本当の気持ちに気付かないでいた。 それどころか、 自分の気持ちさえ持て余していたんだ。 君の傷ついた心は、 僕を許してくれるだろうか。 思春期の未熟な一頁だったと、 笑って許してくれるだろうか。 それとも・・・ 君の記憶から僕のことは消え去ってしまっている? 本棚に並んだ世界文学全集の中から 一冊の本を取り出す。 ツルゲーネフ【初恋】。 陽の光で黄ばんだ厚紙のケースから本を抜き出し、 パラパラとページを捲ると そこには、懐かしい顔が微笑みを覗かせる。
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