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「あの・・・1年A組の教室はどこでしょうか?」
遠慮がちにかけられた君の声に、
僕は後ろを振り返った。
僕はこの時、
凄く怖い顔をしていたと、君は言ったね。
だって、
入学式の会場は新入生よりも着飾った母親たちの方が目立っていて
かなりうんざりしていたんだ。
君は怯えたように一歩後ずさった。
新入生特有の、
少しダブついた制服のブレザー。
まだサマになっていないエンジ色のネクタイ。
耳元を触りながら、上目遣いで僕を見つめた黒い瞳。
これは、恥ずかしがったり困ったりしたときの君の癖だと、
後になって知ったけれど。
正直に言うよ。
僕はこの時、
君の瞳に釘付けにされてしまったんだ。
深海のように、静かに澄んだ黒い瞳。
子犬のように人懐っこく、クリクリとよく動く。
あの時は、ドキリと動いた自分の心臓の音に動揺して、
君を睨んでしまったね。
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