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「大丈夫よ、私はあなたをイジメたりしないわ。だってずっとあなたを探していたんですもの」
私は少しでも警戒心を解いてもらおうと、ニッコリ微笑んだ。
「?」
距離は縮まっていないが、少しだけ私に関心が向いたのか、僅かに俯いていた顔が上がる。
「あなた、この前この近くで一人で歌を歌っていたでしょう?私、歌手を育てる仕事をしているの。あなたなら、きっと素晴らしい歌手になれるわ。私と一緒に来ない?」
距離はそのままに私が手を差しのべると、死んだような目に微かに光が点ったようだった。
「私と来れば温かいご飯もベッドも用意してあげられるし、憧れてるあの明るい場所に行けるのよ」
表の大通りを指差すと彼女がピクリと反応したのを見て、後一押しだと心の中でほくそ笑んだ。
「…あなたの本当にしたいことって何?」
「え?」
初めて彼女が私に発した言葉の意味が理解できなくて、私は思わず聞き返してしまった。
「私を拾う本当の理由は何?」
「だから、あなたを歌手にしたいのよ」
「それだけじゃない気がする」
じっとこちらを見る真剣な眼差しから逃れられなくて、私は観念してため息を吐いた。
まだ子供だと侮っていたが、人を見る目は確からしい。
私の笑顔の仮面は見破られていたのだ。
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