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「本当のこと話したら、ちゃんと考えてくれる?」
私が問うと、少しだけ間を置いてから彼女はコクンと頷いた。
「あなたを歌手にしたいのは本当よ。ただ…あなたの身体にあるウィルスを宿したいの。ウィルスはあなたの歌の力を強くしてくれる。もちろん、薬でウィルスと共存するのだけれど、そのウィルスの宿主…キャリアを見つけるのが私の最大の目的。それまでの身代わりね」
あとで『上』から話し過ぎだと文句を言われるかもしれないが、こちらのカードを全部見せなければ彼女は私たちの元へ来ないような気がした。
だが、人体実験の内容を聞いて果たして私の手を取るか、かなり危険な賭けでもある。
両耳に掛けられたイヤリングが目に留まり、師と仰いでいたドクター・マオの顔が浮かんだ。
もちろん、目の前の彼女がドクター・マオの孫だということは調査済みで、だからこそ探していた。
―――私の研究を認めなかったドクターたちに復讐するために。
ドクターを尊敬していたし、認めてもらいたかった。
けれどそれが叶わないと分かると、私の気持ちは憧れから憎しみへと変わっていった。
ドクターたちが否定してきた研究を、私が彼女の孫であるこの子で成し遂げることが出来たら、こんな素敵なことはないと快感に震えた。
「ここから抜け出せるの?」
先程までとは違って決して大きな声ではないが、凛としたしっかりとした声で問われて我に返った。
「ええ、そうよ。あなたが望むことの大抵のことは叶えてあげられる」
もう一度手を差し出すと、ゆっくりと彼女が私の前までやって来た。
「あなたと行く。ここに居てもただ死を待つだけ。それならあなたと一緒に行っても同じだもの」
「そうね、これからよろしくね、私はグレイス・オコナーよ」
「…エティア、エティア・ハーツです」
私たちは互いの自己紹介をして握手をし、彼女はギャラクシーと言う名の悪魔と契約を結んだ。
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