第1章

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しかし、自分で行動を起こすことができるのではないか。どうすることもできないかもしれないが、しかし、とりあえず和也に電話してみることはできる。とても怖いのだが。 僕と和也はお互いに携帯電話を持っていなかった。だから、家の電話で、和也の家の番号を押した。 いつも聞いていた外国の童謡のようなコールが、恐ろしい響きを奏でる。 「はい、池田です」 電話に出たのは、和也のお母さんだった。 「あ、あの・・」 僕は、言葉に詰まってしまった。和也君は元気ですかと聞いても、元気なはずがない。どんな様子ですかなんて聞いたとしても、何かおかしい。電話の向こうでは、和也のお母さんが、どちら様ですか、と言っている。僕は、とりあえず答えた。 「智樹です」 すると、和也のお母さんは、 「ああ、智樹君」 と、明るい声で僕の名前を復唱した。その明るい声では、何事もなかったのだろうか。和也は、立ち直って勉強しているのだろうか。 しかし、僕は和也君とかわってくださいと言えなかった。罪悪感に負けていたからだ。すると、和也のお母さんは、 「和也、和也と代わって欲しいの」 と、言った。声は、明るい。僕は少しの期待を込めて返事をした。 「はい」 しかし、受話器から聞こえてくる声は、一気に暗くなった。 「もう一ヶ月くらいになるかしらね。あの子ね。部屋から出てこないの」 僕は、深い穴に突き落とされた気分になった。 「え」 そう言うと同時に、僕は目まいがした。放心状態の僕に、和也のお母さんの声が聞こえてきた。 「原因はわからないのだけど、たぶん大学受験のことだと思うわ。智樹君は何か心当たりはないかしら」 心当たりならたくさんあった。ありすぎるくらいだった。僕の目からは、涙が溢れてきた。どうすることもできない悲しみと、自分のせいなのに泣いてしまったことによる、自分への怒りからだ。僕の泣き声が、聞こえたらしい。 「智樹君。智樹君は泣かなくていいのよ。私がなんとかするから」 違う。違うんだ。僕は、そのまま受話器を置いた。 和也が!僕は泣きながら自分の部屋に戻った。      8
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