第1章

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いつもの明るく元気な声ではなかったので、わからなかった。和也はあれからどうなっているのだろう。 「和也君は、どうですか」 包丁を奪い去り、和也を救ったと思っている僕は、そう聞くことができた。 「あの子、和也はね」 だんだん声が震えてきた。 「自ら命を絶ってしまったの」 震える声で、和也のお母さんは続ける。 「いろいろと、ありがとうね、智樹君」 僕は、あ然とした。口をぽっかりと開けたまま、思考が止まった。頭の中が、真っ白になった。そして、へたりこんだ。 僕が救ったはずだったのに。和也から死への道を絶ったはずだったのに。なぜだ。泣くこともできず、考えることもできず、僕は、しばらく放心状態になったままでいた。宵時はすぐに終わり、暗闇が僕を包んだ。  それから、しばらくして、僕は自分の部屋に戻った。受話器は、無意識のうちに置いたようだった。        10  それから僕は、とても苦しんだ。でも和也。お前の苦しみから比べれば、大したことはなかったに違いない。  和也の死を知ってから、どれくらい絶っただろうか。大学からは、入学の資料が届いていたが、僕はそれを開けず、また、カレンダーも見なかった。入学祝に買ってもらった携帯電話も、放置したままだ。  僕は、外にも出ないで、部屋の中で苦しんでいた。幼い頃からの親友、和也。高瀬川で遊んだときも、保育園で遊んだときも、小学校で遊んだときも、中学も、高校も。いつも一緒だった和也。僕の憧れだった。きらきらした笑顔を思い出す。受験戦争のときも、いつも僕のことを心配してくれた。勉強合宿のときは、僕の夢を本気で応援してくれた。お前は言ったな、「僕は今がすごく楽しいよ。生きてて本当に良かった」、と。あのときの和也ともう一度会いたい。会って、他愛も無い話をしたい。一緒に楽しいキャンパスライフを送ろうぜって言ったじゃないか。 僕が和也を殺したわけではない。しかし、救うことができなかった。和也を殺したわけではないのだが。  和也を救えなかった。和也を救えなかった。  僕は、鼻水を垂らし、顔を涙でいっぱいにしていた。泣いてどうにかなるのなら、どうにかなりたい。 僕は和也が死んでからこれまで、ずっとこのような様子なのだった。
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