第1章

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「女って。智樹、今は勉強だろ。まさかこの勝負の夏に頭は女のことでいっぱい、なんてことないだろうな」 和也は、少し笑いながらではあるが、真剣そうな言葉を並べた。和也とは子どもの頃からの親友だ。それから、同じ理科系の学部を受けようとしている。というふうに、つながりはあるのだが、偏差値には、大きな落差があった。和也は、冗談は通じるが真面目で、よく僕のことを心配してくれる。 「大丈夫。女なら、幸せなキャンパスライフの中で」 僕は、笑顔で言った。さぞかし和也のさわやかな笑顔とは落差があるだろう。ちょっと悲しいし恥ずかしい。 「幸せなキャンパスライフか。僕も、大学行ったら大勢の友達、男女入りみだれての友達と、大学の門からの道を歩きたいな」 和也は普段から輝いている目を、さらにきらきらとさせて言った。「だろ、だろ」と僕は大笑いしながら、和也の顔を見ると、和也も笑っていた。 だんだん僕達につられて、教室の中が騒がしくなってきた。しかし、先生が怒ると、皆一斉に静かになった。さざ波が立っていた湖面が、ピンと静かに水を張ったみたいだった。        2 そう、和也はいつでも僕の憧れだった。こんな完璧なさわやか青年。マンガなんかに出てきそうないい友達。いつでも僕を助けてくれる、親友。 和也とは、幼い頃から同じ町で遊んでいた。家もそう遠くない。遊びの内容は、ちょっと野生的だったかもしれない。そんな野生的な遊びをしていた高瀬川をその年の夏になって二人で見たときのあの気持ちは忘れられない。 「暑い」 いつもの塾からの帰り道。僕と和也は少し遠回りをして家に帰ろうということになり、地元の広いわりには車や人の通りが極めて少ない道を歩いていた。僕は真夏の輝く太陽に手をかざし見上げる。手の間から、強烈な光りがすり抜け、まぶしい。隣を見ると、和也は汗を流していた。そのきれいな肌から、限りなく透明な水滴がしみ出ているようだった。 「智樹、お前が暑いって言っても、全然説得力が無いよ」 和也は、眉を寄せて言った。 「俺は、代謝が悪いから、汗かかないけど暑がりなの」 和也には毎年このセリフを言っているはずだ。すると和也は、 「知ってる」 と、いたずらっぽい笑顔を僕に向けた。「ハハハハ」と僕が粘るような笑いをすると、和也も「ハハハハ」と軽やかに歯を見せて笑った。
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