第1章

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「こんな未来がくるなんて、あの時想像できてたか」 僕も和也と一緒に川を見る。 「全然。三年先も見えなかったよ」 それは今も同じだ。これから先のことはわからない。しかし、皆やがては、大きく広い海へと流れていくのだろう。そう信じたい。僕は続けて和也に聞く。 「将来の夢とか、聞いてなかったような気がするな」 和也は少し顔を上げた。 「僕は・・・恥ずかしいから言えないな」 また、いたずらっぽい顔を僕に向けた。 「何。言えよな」 僕もいたずらっぽく追及する。すると和也は、少し考えるような顔になって、 「そういえば保育園の頃、お前自分でオリジナルヒーローの絵を描いて、俺、ハイパーマンになる、とか言ってたな」 と、からかってきた。 「なに、そんなこと言ったっけ。ていうかお前の記憶力すげえな」 こんなやりとりがしばらく続いた。それから、僕達は家路に向ってゆっくりと歩き出したのだった。        3 楽しかった思い出だ。あの時見た高瀬川は、今まで何度も見た中で、とびきり美しかったと思う。それからだいぶたって思い出したのだが、和也、お前は保育園の卒園式で自分の夢を舞台の上で言うとき、「ぼくの夢はありません」、そう言って先生たちを困らせたな。でも夢なんて、大人になってから決めることだ。 僕は、もう一度お前に夢を聞いたときがあったっけ。それは、受験のせいで殺伐としていた高校のクラスの雰囲気にげんなりして、ほとんど勉強をしていなかった僕のために、お前が計画してくれた合宿のときだったな。和也の家が建て替えられていたということも知らずに訪ねて、まずそのきれいさに驚いたのを覚えている。それから、和也の部屋に入ってまた驚いたっけ。 「僕の部屋、汚いだろ」 苦笑いしながら和也は自分の部屋に招きいれてくれた。どのくらい整理されているかは、僕の部屋とあまり変らない。しかし、僕の部屋は、落書きだらけのもらい物の勉強机が二つ並ぶ、畳の八畳間。まるで子ども部屋だ。それに比べて和也の部屋は、ガラスの板がステンレスのあしに乗っかった机に、木でできたきれいなクローゼット。点けたばかりの蛍光灯には、おしゃれな赤い山百合のような傘がついていた。それに、同じ八畳間ではあるが、床はフローリングだった。まるで、大人の部屋。僕は素直に言った。息を漏らして。 「きれいな部屋だな」 「いやあ、全然片付けてなくてさ」
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