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和也は頭をかいた。洗いざらしのストレートな髪が崩れる。
合宿は、それぞれが自分の勉強をするというものではなかった。本当なら和也は、僕と勉強の内容が大きく違うのに、僕と同じ問題を解き、間違えてばかりの僕にやさしく教えてくれた。
最初勉強合宿と聞いたときは、勉強を深夜までやるのかと思った。しかし、まだ夏虫が元気に鳴いている頃、和也は寝ようと言い出した。和也は自分のベッドで、僕は布団だった。夏も終わりの涼しい風が網戸から入ってきて、なんだか心地よかった。二人で寝ようと言った後、しーんとした。それから、僕が切り出した。
「和也、こないだも聞いたけどさ。お前の夢ってなに」
すると和也は、
「ぐうう」
と、あからさまな寝たふりをした。
「おい」
僕は、あきれた声を出す。
「僕の夢は秘密だよ。それより、智樹の夢は」
僕が答えようとしたとき、
「あっ、ハイパーマンだっけ」
と、和也がからかった。
「違うよ」
二人とも眠そうな声音。夢の中でのような会話。
「俺の夢は、エンジニア。普通だろ」
「ふうん。智樹のことだから、でかい夢でも持ってるのかと思った」
和也が眠たそうな声で少し笑った。
「あっ、そうそう。俺大学入ったら絵を描き始めて、ひそかに漫画家になりたいっていう夢持ってるんだよね」
また、からかわれるかな、と思った。しかし、和也は、
「そうか、漫画家か」
そう言って上体を起こした。僕は、肘で頭を支え、和也の方を向いた。和也は続ける。
「どんな漫画を描きたいんだ」
「ハイパーマンは、ただただ正義が勝って悪が滅びるっていう勧善懲悪だろ。なんか、こう、悪い奴も仲間になって、皆でわいわい、わいわい」
とても漠然としたことを言ったと自分でわかった。これでは、せっかく上体を起こした和也はがっかりしてしまうかな。そう思った。しかし、和也は意外な声音で僕に言った。
「いいな。智樹らしくて。すごくいいよ」
一瞬耳を疑った。男口調ではあるが、和也の声音には母のような響きがあった。和也は続ける。
「智樹、お前はお前らしく生きていけよな。絶対成功するから」
「やめろよな。なんかこれから死ぬみたいな発言だよ」
すると、突然和也は声に、生命が吹き込まれたような感じで言った。
「僕は今がすごく楽しいよ。生きてて本当に良かった」
「そ、そうか。いつ頃から」
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