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僕は、少しあわててちぐはぐなことを聞いてしまった。こんなに和也が自分をはっきりと出すことは珍しかったからだ。
「産まれた時から」
なぜか、とても安心する一言でもあった。
「最初からじゃん」
僕は笑って言った。
眠たそうな声音。それから夢の中でのような会話が、いつのまにか日常の僕たちのようになってきた。変な表現かもしれないが、僕は嬉しそうに言った。
「眠れそうもないね」
「うん。このまま語り明かすか」
それから僕達は、小さい頃から今までの思い出話。それから受験競争である今の話。などなど、色々なことを話し、夜が明ける少し前に寝たのだった。
4
勝負の夏は、和也との友情を深められ、思い出もいくつかできた。こう思うのは、僕が勝負できなかったからということからくる言い訳ではない。確かに僕は勝負の夏に負けた。しかし、これは本当のことだ。
和也は充実した勝負の夏を過ごせたようだ。しかし、秋になり、それが体に現れてきた。
「和也、お前、手どうしたんだ」
塾の教室に入ってきた和也は、利き手である右手に包帯を巻いていた。
「腱鞘炎だってさ」
和也のさわやかな顔には、不気味で大きなくまができていた。腱鞘炎にしろ、くまにしろ、とても痛々しい。勉強のしすぎだということは、すぐにわかった。僕の和也にたいする心配が一気に膨れ上がった。大丈夫か、と心配するよりも、叱りたいと思った。親友として。普段友達に厳しいことを言えない僕であったが、このときばかりは、精一杯語気を強めた。
「和也。勉強しすぎだ。勉強するのはいいことだけど、受験前に倒れたらどうするんだよ」
叱ろうと思い顔に迫力を出した。しかし和也は、
「心配すんな、手が使えなくても暗記はできる。受験前にはきっとよくなってるよ」
と、平気な顔をしている。僕は、怒鳴る。
「そういうことじゃない」
僕は、和也のことが心配で心配でしかたなかった。しかし、和也は、またもや平然としてこう言った。
「ありがとう」
とてもさわやかだった。
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