第1章

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今度は、和也のほうから声がかかってきた。しかもそれは、僕の夢についてのことだ。僕は、和也が少し接近してきたかのようなことを言ったので、嬉しくなった。 「まだだ。だけど、そろそろ描き始めたいと思ってるよ」 僕は、以前の調子になってきた。 「そうか」 和也は寂しそうに、ぽつりと言った。続けて言った。 「俺、大学、どこも受かんなかった」 和也は、目から涙をこぼした。そして、呆然としている僕の横をすっと通り抜けた。後ろに足音がだんだん遠くなっていくのが聞こえた。 疎遠だったからではなかったのだ。もう和也からは、さわやかな笑顔、雰囲気さえも消えていた。目の輝きも。 僕は、しばらく立ち尽くすことしかできなかった。今度は僕が、曇り空を何も考えられずに見上げる番になった。 しばらくして僕は、呆然としたまま家に帰った。         6 帰る途中に高瀬川があったはずだ。しかし、それには気づかなかった。無意識のうちに、あの夏の日の塾からの帰り道、和也と遠回りをした道を辿っていたような気がする。しかし、ほとんど記憶に無い。家に帰ってから、僕は苦しみにもがいた。しかし、それから後に訪れる、更なる苦しみに比べればたいしたことはなかったのだが。 僕は、自分の部屋の電気を点けた。部屋は明るくなったものの、僕の心は真っ暗だった。僕は大学に補欠合格をした。しかし、和也はどこにも受からなかったのだ。浪人すればいい。そうすればきっと、来年には和也の笑顔が見れる。そうは思ってみたものの、同じ受験生だった身として、和也の苦しさ、涙の重さがわかるような気がした。すでに、心にたちこめていた灰色の煙は無かった。しかし、かわりに真っ黒な煙が、瞬く間に心の中を煤けさせ始めた。 ひょっとして和也は、あのとき僕とぎくしゃくし、疎遠になってしまったから、勉強が手につかなくなってしまったのだろうか。それとも、無理が祟ったのか。 僕のせいだとすると、とんでもないことをしてしまった。僕のせいか。僕のせいなのか。僕が和也からあの笑顔を奪ってしまい、涙を流させたのか。 息が止まるのではないかと思うほど、心が苦しくなった。 僕は、髪の毛をくしゃくしゃにした。目をかっぴらいて、息を大きく吐き出した。 しかし、そんなことをしても、楽にはならなかった。 苦しい。僕は、泥沼にはまり、もがき苦しみ、そして、沈んでいった。
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