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「みゅー、待てって。」
先にスタスタと歩きだした私を追いかけるようにやってきた課長。
私の方が足は確実に遅いからすぐに追いつくに決まってる。
「傘、さしてると遠いよな。相合傘なら窮屈で最高だろ?」
確かに、そうだと思うけど。
「見られたら、言い訳もできないですよ。」
「だよなー。」
ガッカリって感じの声を聞いて、嬉しい気持ちになるけれど。
やっぱり、そういうことを言えない自分は可愛げがないかもしれない。
「会社、行きたくねー。二人で有給、使ってどっか行きてー。」
課長の言葉にウソはないんだと思うから、嬉しい。
でも、可愛げがない私は可愛くないことをついつい言ってしまう。
「課長がいないと、他の人が困りますよ。」
「可愛げねーのな。まぁ、でも、そうやって言ってても可愛いんだけどな。」
どんな顔をして、そういう甘ったるいことを平気で言えるのか。
傘で顔が見えないから言ってくるのかと思って、ちょっと傘をずらして課長の顔を見上げてみた。
「こっち、見てくんな、バカタレ。」
「ふふふっ。」
「みゅーがなかなか俺に甘えてこないから、出血大サービスの大盤振る舞いで恥ずかしいことの連呼してやったのに、見るとか反則だろ。」
なかなか甘えてこない。
痛いところだ。
「なんか、言えよ。」
「可愛げのある子はどうやって甘えるんですか?」
「けっ。バカタレ。酔っ払わせて俺の家に連れ帰ってたっぷりと甘えさせてやるぞ。」
「酔っ払ったら、甘えるんですか?」
「ムカつく。記憶にないのがムカつく。酔っ払ってなくても俺は甘えて欲しいと思ってんのに。」
課長は、不器用だったりするけれども、思ったことをストレートに教えてくれる。
けど、私は自分の気持ちを伝えるのが苦手みたいだ。
「課長、甘えたいと思ってないわけじゃないですからね。」
交差点で赤信号で停まったときに、勇気を出して、落ち着いた気持ちで伝えてみた。
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