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「はぁーっ。」 溜息が聞こえてきた。 「知ってるつーの、バカタレ。だから甘えてこればいいつってんだろーが。」 ドキンとした。 だって、ねぇ。 慣れてないから。 そう、慣れてない。 弟が生まれてからずっと、お姉ちゃんでいたんだから。 30歳を超えて、甘えていいと言ってくれる課長と出会えて。 すぐに、甘えられないでしょ。 「なるべく、頑張ってみます。」 雨の音で、聞こえないかなと思うくらい、小さな声でしか言えなかった。 「ゆっくりでいいし、頑張らなくていい。」 私の声が聞こえたのか、私の声が聞こえなくても同じことを言ってくれたのか。 全部、分かってくれてるようで嬉しかった。 信号が青に変わって、会話もなく二人で歩いて会社に向かった。 でも、その無言の時間は苦痛じゃなかったし、むしろ心地よかった。
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