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いつもの交差点が見えてきた。
課長の大好きだと言う赤信号になるように、歩く速度を自然と落としてしまうのは、きっとお互いにもう少し同じ時間を共有したいからだと思う。
赤信号。
隣に課長。
この陰った感じが好きだと思う。
でも、この交差点を渡ってしまったら、できたてほやほやの恋人同士から上司と部下へと切り替えないと。
「課長、私、今日、モズクの日なんでコンビニ寄っていきますね。」
「モズクよりもお前が食べたい」
耳元で甘い声で囁かれたら、私の心臓は一気にスピードアップ。
猛烈な勢いで体中に血液を送り出して、顔が真っ赤になる。
「青になったぞ。」
課長が意地悪を言ったくせに、言った張本人からの涼しい声に、なんか悔しくなる。
課長は大人で私は、そういう経験がないから・・・。
そんなことが一瞬頭の中を通って、どんよりとした気持ちになった。
コンビニが見えた。
「じゃぁ、また後で。」
課長に声をかけて、そそくさと逃げるようにコンビニに入った。
幸せかと聞かれたら幸せだし、楽しいかと聞かれたら楽しいけれども。
課長みたいに経験豊富じゃないから。
釣り合ってないと思う。
でも、そんなことを素直に話せないし。
可愛げがない。
そうだ、いつか課長に言われた言葉がぴったり。
可愛げがないんだ。
お目当てのモズクを手に、レジに持って行く。
「おはようございます。」
眩しい笑顔をくれるいつものお兄さんの素敵スマイル。
なんか元気もらえたかも。
お金を払って、お釣りをもらって、小銭をワクチンの募金箱の中にチャリンチャリン。
「ありがとうございました!!!」
元気な声に見送られて、コンビニを出ようと・・・なぜ、ここにいるのでしょうか。
さっき、別れたはずなのに。
「浮気者。」
不機嫌そうな顔で言われても。
「俺にも、笑え。」
「ぶっ。ふふふ。」
「ちっ、まぁいい。一緒に行こう。」
ちょっと課長が可愛いと思った。
課長の方が確実に大人なのに、私に浮気者なんて言っちゃうところが。
ヤキモチですかって聞いたら怒りそうだからやめておこう。
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