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課長の家の台所は一言で表すとミラクルだった。
デイリーに使うお皿を吊戸棚に入れてるような人の台所だから、何が起きても驚かないだろうと思っていたのに。
大きさ順にきっちりと収納されてるフライパンとお鍋とボウル。
包丁もなぜか物凄く切れ味がいいし、色々な種類の包丁が置いてあった。
スーパーで、ハンバーグの素を買おうとしたり、パスタソースを買おうとしていた人の台所じゃない気がする。
あれは、私を笑わせるためのパフォーマンスだったのかもしれない。
「お料理、好きですか?」
「普通。作らなかったら、買いにいかないといけないし。朝と夜は作ることが多いけど、最近まで昼は専らコンビニだったって知ってるだろ?」
「はい。」
玉ねぎのみじん切りをしていたら、じっと見られる。
居心地が悪い。
「何ですか?」
「いや、なんかいいなと思っただけだ。」
そんな風に言われたこと、生まれてこのかた、初めてだ。
ドキドキするっていうか、疼く。
心のどこかで、ムズムズする。
「へー。私は、お料理してる酒井さんをなんかいいなと思いましたよ。」
チラ見。
ふふん、照れていらっしゃる。
楽しいじゃないか。
「抱き締めてやろうか?」
「・・・止めて下さい。危険極まりないですよ。それに、作業を邪魔されるのは好きじゃないです。」
「ちっ。可愛げがねーやつ。」
可愛げね。
もともと持ち合わせてないのかもしれない。
可愛げのある人ならなんて言うんだろう。
抱き締めてやろうかって言われた後。
いいっすねーって返事するんだろうか。
いや、想像できない。
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