1章 私の夢

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時計の短針は9と10の間を指している。 二時間近く眠っていたみたいだ。 体を起こして前髪を払うと、目の周りが湿っていた。 ソファーにも円形の痕が残っている。  どんな夢を見ていたのかは覚えていない。 覚えていないけど、多分お兄ちゃんの夢。 楽しかった思い出だったとしても、目を覚ますと涙が流れている事が多い。 楽しい思い出なのに、笑っていたはずなのに、どうして私には悲しく映るのかな。 悲しい事は時間が解決してくれるというけれど、私の孤独がどうしてもあの頃の記憶を手離してくれない。  十二時のお昼ご飯以来何も食べていなかったから空腹だった。 部屋着に着替えて台所に立った。 冷蔵庫を開けて何を作ろうかと考えていると、昨日の残り物が目に留まった。 食べ掛けで半分だけ残ったお好み焼き。 それを温めて一口食べた。 パサパサになって美味しくないけど、ほっとする。 お好み焼きは母さんが遅くなる日に、お兄ちゃんがよく作ってくれた。 不器用だったお兄ちゃんの料理は殆ど同じ味で、作れる料理もあまり多くはなかったけど、お好み焼きはなんとか色々な具材を入れて「今日は海鮮風にしてみたよ」なんて言って苦笑いをしてた。
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