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十二月二十五日。今年は、ホワイトクリスマスとはいかず、生憎の雨。街を彩るイルミネーションの光が雨や水たまりに反射してキラキラと輝く。より一層、幻想的に思えた。寄り添いながら傘を差し、仲睦まじそうなカップルを横目に、私は俯きながら足早に歩く。
肩から下げた紙袋の肩ひもを堅く握りしめ、今にも溢れそうになる想いを必死で堪えながら目的の場所へと急いだ。町外れの川岸まで来ると私は足を止めた。紙袋に入っているのは、小振りの灯籠と小さな紙切れと写真。灯籠に火を灯すと、紙切れと写真と一緒に灯籠を川へと流した。灯籠は、淡い光を放ちながらどんどんと遠ざかっていく。私は、それが川の向こう側へと消えて行くまでジッと見つめていた。
私がまだ、学生だったころ耳にした噂。新月の夜に灯籠と逢いたい故人の名前を書いた紙と写真を川に流す。遺品があるとなお良い。すると少年がどこからともなく現れ死者に逢わせてくれる。あの頃の私は、そんなものは迷信だと信じもしなかった。馬鹿馬鹿しいとさえ思った。それが今や、そんな誰から伝わったかも分からない噂に縋る様だ。自分に嫌気がさす。真っ暗闇の川辺で、一人フッと自嘲する。
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