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「市川愛さんですね。 はじめまして」
突然、背後から自分の名前を呼ばれ、声の方へと振り向く。驚きと一人で笑っていた所を見られた恥ずかしさとで顔が熱くなり、私は俯いた。
「どうして、私の名前を」
顔はしっかりとは見ていないが、声からして少年だろうか彼に問うと、「それは企業秘密で」という意味不明な返事が返ってきた。
「どうして名前を知っていたのかは言えませんが、ちゃんと市川さんの願いは叶えますので、安心してください」
そういいながら彼は、私の横を通り過ぎる。
私の願いを叶えるという言葉に、私は俯いていた顔をあげる。すると目の前には暗くてキチンとは見えなかったが、十二月氷雨の中、傘もささず濡れそぼった少年が手を差し伸べていた。見たところ高校生ぐらいの少年だ。そんな彼の側には一艘の木製の船。いつの間にそんな船を用意したのだろうと固まる私を
「さあ、行きますよ」
とせかした。
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