1、愛しい人

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 船が動き出すと、暫くシーンとした無言の状態が続く。先が見えない闇と、川の水が流れる音に私は恐怖すら感じた。 「あの」 沈黙に耐えきれず、私は少年に声を掛けるが返事はない。 「名前は……?」 それでもめげずに、声をかける。 「……河瀬」 妙な間の後に、少年「河瀬くん」は名前を教えてくれた。 「河瀬くん。この船は何処に向かっているの」 興味本位に訊ねる。深い意味はなかった。あの人に逢えるなら何処でもよかったから。 「彼岸と現世の境」 河瀬くんは、静かに私の質問に答えてくれた。 「そろそろだよ」 意味が分からないと言おうとしたが、河瀬くんの言葉によって遮られる。河瀬くんがそう告げると、真っ暗闇だった辺りがほんのりと明るくなる。 「凄い。まるで、天の川を渡ってるみたい」
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