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「そろそろ到着します。本当に、いいんですね?」
河瀬くんは念を押すようにもう一度聞いてきた。なんど聞かれても答えは変わらない。「ええ。私は彼に逢うわ。 ……とその前に出来れば、対価を教えて欲しいんだけれど」
「対価については、市川さんが相田さんにお会いするまで僕にも分かりません。 ただ、対価の支払いによって、市川さんが後悔するだろうとだけ」
河瀬くんはそう私に告げると、苦しそうに唇を噛み目瞑った。濡れそぼった髪から雨水が伝い落ちる頬に私はそっと触れる。河瀬くんの頬に触れた指先から伝わる体温は氷のように冷たかった。
川の真ん中、船の進行方向上に立つ人の姿が見えた。
「川の中に人……? 」
私は不思議に思い首をかしげる。こんな寒い中、川に浸かるなんて考えられないだろう。
「一つご忠告を」
「なに?」
「無事に現世へと帰りたいならば、絶対に船から降りてはなりません」
その言葉に、私は頷く。
「それでは、行ってらっしゃいませ」
ペコリとお辞儀をし、河瀬くんは船を降り川へと入っていく。
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