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「僕は君が大好きだ!」
男は両手を突き出し、まるで下手な舞台俳優が派手な演技を繰り出すように言う。
「信じられないわ!」
君、と名指しされた女の方は肩をそびやかして、けど頬を紅に染めて反抗する。
「あなたいっつもそればかり。何度聞かされたかわからないわ。信じられると思うの? 他のひとにも同じこと言ってるんでしょう!」
「ああ、どうして。そうつれないことを言うのかなあ」
年齢より5歳も6歳も若く見られる顔の持ち主である彼・武幸宏は、ちえーっと口をとがらせ、目を足元に転じる。
「わー、かわいい」と言って指差す先には道端に咲く雑草があった。地面にへばりつくようにして生える丈が低い草で、豆粒大の青い小花がびっしりと咲きそろっている。
幸宏は会話の方向をいきなり変えてしまう名人だ。脈絡もない話題に引っ張られてしまうので、彼を知って間もない者は大概が戸惑う。真逆の者は毎度のことなのでさして気にも止めない。
今回もそうだったわけだ。
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