#3 アツシ

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#3 アツシ

ここか――――――――! 正門の前に止まった車から降りてきた男は かけているサングラスを目深に押さえて 颯爽と目黒台高校の……門をくぐった…… 190cmはあるだろう身長と 癖のある銀髪のミディアムヘア…… サングラスの上からも想像できる端正な顔立ちに すれ違う誰もが、その存在に振り返る。 「だ、だれだれ……!? あの人……!」 「チョーカッコいいんですけど……!」 頬を染めながら立ち止まる女生徒たちを尻目に 男はポケットから取り出したメモを確認しながら やがて中庭を抜け体育館に向かって歩き出した…… 渡り廊下の辺りまで足を運ぶと あたりを見渡して、執行委員の女生徒を捕まえたその男は サングラスを外してこう言った。 「ねえ……キミ……今日ここでライブをやる、飯田ヒサシって子  知ってたら……彼の所まで案内してくれないかな……?」 切れ長でクールなその瞳に 執行委員の女生徒は身体を硬直させて頬を赤らめた。 と、その矢先……後ろから声が……! 「アツシさーん! ここですよ、ここ!」 ヒサシが体育館脇から、手を降って男に声を掛ける。 男は女生徒に一言礼を言うと、ヒサシに近づいてこう言った。 「ヒサシ……待たせたな。  ちょっと他のバンドの打ち合わせもあったんでな……  それで……例の……歌姫はもう楽屋の中か……?」 「は、はい! まだ彼女には今日  アツシさんが来ること言ってないんですけど……  でも、そんなの関係なしに、アイツは  すごいステージをみせてくれると思います……!」 彼の名は瀧川敦(タキガワアツシ)。 かつてインディーズシーンを席巻したバンド A'zNAIL(アズネイル)の元リーダーで ギタリストとしての実力は超一流…… メジャーデビュー目前にしての突然の解散は ファンのみならず、日本のロックシーンに 多大なる影響を与えたカリスマミュージシャンだ……
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