第1章

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ここ、つくつく山は少し変わった山で、時々不思議な動植物が見られることがある。今は一面紅葉で覆われており、非常に雅な風景となっている。 「おぉ、やっぱりここにおったのか。新しい提灯ができたぞい、羽之」 弥生がとある一室に襖を開けて入る。その部屋には、大きな機織り機とその他裁縫道具、そして着物を縫う1人の少女がいた。 「へー、新しい提灯?今度はまともな花使って作ったんでしょうね?」 弥生の方を見て溜め息交じりに返事をしたこの少女は〝羽之(うの)”。この屋敷で弥生とともにもの作りに勤しむ少女である。見た目は弥生と同じくらいの年齢で、紺色のロングヘアで髪には赤い花と黒い花をつけており、赤い着物と白と紫の袴を着ている。 「うむ、無論じゃ。前みたいな花はワシもこりごりじゃ」 「何をどう間違えたらこんにゃくの花で提灯作ろうって考えれるのかがさっぱりわからないわよ、ほんと」 「あの時は本当にすまなかったのじゃ。しばらく臭いも残ってしもうたしの」 ちなみに、弥生は提灯作り、羽之は着物作りを仕事としているが、彼女たちの作るものはただの提灯や着物ではない。 弥生は花を入れると光る提灯を作っていて、その光は蛍のように鈍く淡く灯る。花の種類によって光の色や強さも異なる為、弥生は色々な花で提灯を作って光り方を試している。 羽之の仕事は羽を織り交ぜた着物を作ることであり、布の素材も特別製で、必要に応じて色調も変えることができる。織り交ぜられた羽は様々な幸運を招く効果があるとかないとか。 そんな不思議グッズの噂は山の麓の町でちらほら囁かれ、噂を聞きつけた人が時たま買いにくる。その売り上げで麓の町で買い物をするのが彼女たちの基本的な生活だった。
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