魔の手

6/25
前へ
/211ページ
次へ
* * * * * 「西崎尚翔君……だよね?」 そう話しかけてきたのは、顔も知らない男子生徒。 …正確には、顔は見たことがあるかもしれないけれど、全く記憶に無い顔。 西崎尚翔と呼ばれた相手───つまりおれは、名前を呼んできたその人に振り向いた。 「えっと………」 「あ、僕、2年の朔原(さくはら) 凜太郎(りんたろう)。よろしくね。」 「はぁ…」 2年、ということは、潤先輩と同学年。 とは言え、知らない上級生に突然話しかけられて「よろしく」と言われたところで。 …戸惑いしか無い。 ───けれど。 「手紙………全部読んでくれた?」 放たれた一言に、心臓が凍りつく。 今、 手紙って────── 朔原と名乗ったその人は、一見無害そうな笑みを湛えておれを見ている。 “手紙” その単語を聞きさえしなければ。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

562人が本棚に入れています
本棚に追加