魔の手

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…油断した、と思った。 潤先輩の言い付け通り、極力1人にならないように行動していた。 今だって。 さっきまでは、仲のいいクラスメイトと2人で、ここの自販機にジュースを買いに来ていた。 けれどそのクラスメイトが担任に呼び出されて、おれは1人ここに残された。 自販機のあるこの渡り廊下は人気が少なく、授業の合間の10分休みはほとんど人が来ない。 すぐ教室に戻るからと、おれも特に気にしていなかった。 それが甘かった。 あのストーカー紛いのラブレターがおれの下駄箱のロッカーに入れられるようになってから、1週間。 その間毎日入れられていたけれど、差出人が姿を現すことはなかったから、だんだん油断していったんだと思う。 …まさか今、接触してくるとは思わなかった。 「君、いつも誰かと一緒にいたでしょ? だから話しかけたくてもできなかったんだよねえ。 …あの不良といる時は特にね。」 「………」 「でも流石に、四六時中誰かと一緒ってワケにもいかないしね? 1人になる瞬間を虎視眈々と狙ってた甲斐があったなあ。」 …にこやかな口調で。 言っている事は、うすら寒い。
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