魔の手

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「脅されてるんだろ?」 朔原先輩(先輩呼びはしたくないけど上級生だから仕方ない)は尚も続ける。 「あの不良に、脅されてるんだろ。」 「違う…」 「だって君とアイツ、明らかに不釣り合いじゃん。あの不良のことだから、君を脅してパシりにしてるんだろ。」 「違うっ…」 「大丈夫だよ。僕が解放してあげるから。解放して、守ってあげる。」 …この人、思い込みがかなり激しい。 おれがどれだけ否定しても聞く耳を持たない。 それよりも、今のこの状況。 ストーカーと2人きり。 もしかしなくてもまずいんじゃ… 「ねえ、西崎君。」 「っ!」 朔原先輩がおれに向かって歩を進める。 「僕と付き合おうよ。」 「え…」 「守ってあげたいんだ。君を守れるのは僕しかいない。」 後退りするおれに朔原先輩は一気に距離を詰めてきた。 逃げる暇もないまま、目の前まで来た朔原先輩に、遂に手首を掴まれた。 「痛……」 先輩の指が、おれの手首に食い込む。 ────怖い。 話したこともない人に迫られ、痛い程の力で手首を掴まれ、 その双眸はまっすぐにおれを捉えている。 でもそのまっすぐさが、逆に異様だった。
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