魔の手

14/25
前へ
/211ページ
次へ
言われるまで気づかなかった。 おれの片手首には、うっすらとだけど掴まれた痕が浮かんでいる。 痛みも、僅かに残っている。 「…1人で行動するなっつっただろうが。」 潤先輩が不機嫌そうに言った。 …そうだ。 確かに潤先輩にはそう言われていたのに、それを破ったのはおれだ。 だから、おれも悪い。 「ごめんなさい…迷惑かけて………おれが油断してたせいで、先輩に迷惑を───」 「違う。」 自責と後悔で矢継ぎ早に喋るおれを、先輩が短く遮った。 先輩の顔は、複雑そうだった。 「迷惑と思ってたら、傍にいていいなんて言わねぇ。仮に迷惑だったとしても、………………………お前が、危ない目に遭う方が、よっぽど嫌だ。」 「先輩…」 「さっきも…偶然とは言え俺が居合わせてよかった。」 先輩はそう安堵の言葉を口にして、 …再び、おれを抱き寄せた。
/211ページ

最初のコメントを投稿しよう!

562人が本棚に入れています
本棚に追加