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言われるまで気づかなかった。
おれの片手首には、うっすらとだけど掴まれた痕が浮かんでいる。
痛みも、僅かに残っている。
「…1人で行動するなっつっただろうが。」
潤先輩が不機嫌そうに言った。
…そうだ。
確かに潤先輩にはそう言われていたのに、それを破ったのはおれだ。
だから、おれも悪い。
「ごめんなさい…迷惑かけて………おれが油断してたせいで、先輩に迷惑を───」
「違う。」
自責と後悔で矢継ぎ早に喋るおれを、先輩が短く遮った。
先輩の顔は、複雑そうだった。
「迷惑と思ってたら、傍にいていいなんて言わねぇ。仮に迷惑だったとしても、………………………お前が、危ない目に遭う方が、よっぽど嫌だ。」
「先輩…」
「さっきも…偶然とは言え俺が居合わせてよかった。」
先輩はそう安堵の言葉を口にして、
…再び、おれを抱き寄せた。
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