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靴を履き替えた後、尚翔が俺を呼び止めた。
「先輩、あの…」
「ん?」
言い出すのを躊躇っているような様子の尚翔。
俺の目を見つめながら、けれどその双眸は微かに揺れている。
「…どうした?」
「っ…」
尚翔は一瞬目をそらし、それから再び俺を見た。
「………心配してくれて、ありがとう。でも、おれは大丈夫だから。」
「は………」
「先輩は、先輩のしたいようにして…」
「何を………」
「じゃ、またっ」
意味不明な言葉と共に、戸惑う俺を残し、尚翔は半ば走るように立ち去った。
残された俺は、後を追うこともできず、ただその場に立ち尽くした。
『おれは大丈夫だから』って、何だ?
何が大丈夫なんだ?
俺が追及しようとするのを遮り、背を向けたあの姿が。
…まるで俺を拒絶しているようで。
言い様のない不安が渦巻いた。
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