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「彼に触るな…!」
地面に転がっていた朔原先輩が、よろよろと起き上がった。
「お前………その汚らわしい手を、尚翔君からどけろ!」
痛みで足に力が入らないのか、朔原先輩はかろうじて膝で立っていた。
ギラギラとした獰猛な眼光が、おれと潤先輩を射抜く。
「チンピラ風情が………僕にこんなことして、ただで済むと思うなよ。」
「テメェが尚翔にしたことを考えりゃ、当然の報いだろうが。何寝惚けたことぬかしてんだ。」
「彼は僕の物だ。お前に縛られていた彼を、僕が救った。僕は当然のことをしたまでだ。お前がやったことは傷害だぞ!」
…話が全然通じない。
潤先輩も思ったのか、呆れたように絶句していた。
こういう思い込みの激しいタイプは、何を言っても通じない。
だからと言って、潤先輩にこれ以上暴力を振るわせるワケにはいかない。
おれのせいで、潤先輩に暴行沙汰を起こさせるのは嫌だ。
潤先輩だけが悪者になるのは、絶対に。
「どうせお前は、学校中で煙たがられている不良なんだ。喧嘩に明け暮れる問題児なんだろう? 学校が僕とお前、どちらの言い分を信じるかなんて目に見えてる。」
朔原先輩の言葉に、おれはますます不安になり、潤先輩の服の裾を掴んだ。
それに気づいた潤先輩は、そっとおれの頭を撫でた。
その優しい手つきに、状況は変わらないにも拘わらず安心する。
「それはわかんねーだろ。」
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