理由が無くても守れる権利

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尚翔は体育座りをしていたが、その膝に顔を埋めるように隠した。 「…最近、先輩がおれに対して優しくなったのは感じてた。傍にいていいと言われた時は嬉しくて。…だけど、おれの中でどんどん欲が沸いてきて。」 ポツリ、ポツリと。 か細い声で話す尚翔。 部屋の中が静まり返っているからか、尚翔の声がよく響いて聴こえる。 「おれにだけ触れてほしいとか、おれにだけ笑ってほしいとか、そんな醜い欲が次々に出てきて…そんな欲を先輩に知られるのが怖かった。」 「…なんで…」 「せっかく先輩が傍にいるのを許してくれて、それだけでおれは充分だって思ったのに………おれの貪欲さを先輩に知られたら、今度こそ本当に嫌われると思った。厚かましくて欲深い奴だって、軽蔑されるって………」 …声が震えている。 俺はその頼りない横顔をじっと見つめた。 男にしては長い睫毛。 僅かに充血した目。 でも今は泣いていない。 もしかして…シャワーを浴びている時、泣いていたのか。 「だから、先輩と距離を置こうと思った。朔原先輩のことで潤先輩に迷惑をかけたくなかったのもあるけど、おれの貪欲な気持ちを鎮めたくて。」 「………」 「それなのに……朔原先輩に襲われてるところを見られて………汚くなった自分を見られて………もう、どうしていいか…わからない…」 …堪らなくなった。 もう、耐えられない。 俺は尚翔の腕を強く掴んだ。 驚いて顔を上げた尚翔を思いきり引き寄せ────抱き締めた。 「ッ…先輩…?」 「…お前は…どれだけ俺を心配させる気だ…!」 やっとの思いで出たのは、そんなセリフ。 ものすごく…安堵していた。 拒絶されたと思い、不安だった。 失いたくなかった。 それが今こうして俺の腕の中に居て、本心を聞けて………胸がいっぱいだった。 今まで生きてきて、誰か1人を強く好きになることはなかった。 女の経験はあるものの、相手を好きになったことは一度もない。 それでも今、触れたいと。 キスをして、抱き締めて。 誰にも渡したくないと。 そう強く想えるのは、今俺の腕の中に居るコイツだけだ。 「…好きだ。」
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