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「………」
「………」
俺も尚翔も。
お互い、無言。
…沈黙が、つらい。
一言も発さない尚翔が怖い。
「………………………悪ィ。」
やっとの思いで言えたのは、そんな情けない一言。
でもそれ以外言葉が見つからない。
「……あの………………さっきのは………」
おずおずと訊ねてくる尚翔。
…そうだよな。やっぱり訊くよな、ソコは。
「昔、抱いた女だ。」
「覚えてない…って…」
「………自棄になってた時期だったし、取っ替え引っ替えしてたから。」
「………」
こんな汚い過去、尚翔には話したくなかった。
だけど過去の女の1人と遭遇してしまった以上、変に誤魔化すワケにもいかない。
「………そっ…か…」
「尚翔…」
「…ごめんね、今日はここまででいいよ。」
「え?」
「今ちょっと…混乱してて。整理したいから、1人にさせて…」
「………。わかった。」
平静を装っていても。
心臓は嫌な音を立てて脈打っていた。
一見“遠慮”しているような尚翔の言葉に、“拒絶”を垣間見たような気がして。
…心が、ざわつく。
その頼りなげな背中を、俺はただ見つめることしかできない。
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