562人が本棚に入れています
本棚に追加
/211ページ
* * * * *
ベッドに横たわったままの尚翔が、目をそらすことなく俺を見つめている。
けれどその双眸は揺れている。
無意識なのか、何かに耐えるように下唇を噛んで。
「最初は、なんだコイツって思った。俺のことを何も知らねぇ奴が俺のことを好きだとかぬかして、しつこく付き纏ってきて、しかも男ときた。俺は毎日生きるのに必死で、誰のことも信用してねぇのに、何の苦労も無く温室でぬくぬくと育てられてきたコイツに、何がわかるって…」
今、思えば。
俺は羨ましかったのかもしれない。
愛されて育ってきた尚翔が。
俺と関わっても周囲から疎外されること無く、友人と過ごせる尚翔が。
あの日────今となっては顔も覚えていない不良を叩きのめした日、両親だけでも俺を信じてくれていれば、何か違っていたかもしれない。
そんな思いが根底にあったからこそ、余計に尚翔を突き放したのかもしれない。
多分、本当は。
俺自身を愛してくれる存在が欲しかった。
「いつの間にか…………尚翔を手放せなくなってた。」
尚翔が傍に居るのが当たり前になっていた。
他の人間と楽しそうにしているのを見て、1人モヤモヤして。
「本当に初めてだった。誰か1人に、こんなにも傍に居て欲しいと思ったのは。誰にも渡したくないと思ったのは。」
「先輩…」
「頼む、尚翔………俺から、離れていくな。」
最初のコメントを投稿しよう!