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病室に1人残された
自分の名前でどういう人なのかもわからない
私はひどく混乱していた。
思い出そうとしても頭の中は真っ白で激しい頭痛さえする。
頭痛が不安をさらに大きくする。
どうしよう…どうして、こんなことに…
涙があふれる。
のに、ちっとも何も思い出せない。
病室のドアが開いた。
『伊織…』
さっきの女の人と男の人だった。
『わ、たしは…いおり…?』
2人は悲しい顔のまま答えた
『…そう、あなたのなまえは伊織。熊宮伊織。』
『くまみや、いおり…。』
まるで初めて名前をもらったかのように全く聞き覚えのない言葉だった。
『そうよ、そして私があなたのお母さん。そしてこの人があなたのお父さんよ。』
『お母さん…お父さん…』
記憶が無いのだから当たり前なのだが全く見覚えの無い顔だった。
私を騙そうとしてるのではないかと疑うほどだった。
『記憶が無くてすごく不安だと思うの。でもね、信じて。誰もあなたを騙そうとなんてしてない。少なくとも私達は味方よ。』
『味方…』
するとお父さんは優しく私の手を包みこんで言った。
『大丈夫、無理に思い出そうとしなくても。これから3人でがんばっていこう。だから信じてほしい。』
その暖かく優しい手は
ほんの少しだけれど私に安心感をあたえてくれた。
『…はい。』
私は2人の優しい顔を見て小さくうなずいた。
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