… 白露 …

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マンションの前で、山内さんは待っていた。 「ごめんなぁ、車出せればよかったんだけど、軽く飲んできちゃってて」 「いえ、こっちが返し忘れていたので、ほんとうにすみません」 「あがってく?お茶くらい出すよ」 山内さんには、危機感というものがない。 ぼく、なにするかわかりませんけど? 昼間、家主のいない部屋には妙な緊張感があった。 山内さんに続いて入ると、部屋もリラックスして迎え入れてくれる。 ぼくは部屋着を片付けたソファに、山内さんは床に置いた大きめのクッションに座った。 「笹本には、感謝してもしきれない!」 「うまくいきました?」 「もう、バッチリ、今度、飯おごるから!」 「食べにいくときはいつもおごってもらってますよ」 「ははは、そうだな、なんか欲しいものとかある?」 …それ、聞きますか、 「あ、高すぎるものは無理だけど!」 ベタな回答なら、用意しています。 「それなら…モノではないんですが、お願いきいてもらえます?」 「いいよ、なに?」 「だめなら、断ってください」 「うん、わかった」 その笑顔が歪んでしまうかもしれない、とおもうと、ためらってしまう。 でも…聞かずにはいられない。 「ぼくと身体の関係、もてますか?」 好きか嫌いかなら、好き。 それがどんな好きなのか、わからないけど。 「え?」と、山内さんは瞬きを二回する。 たぶん、時間としては三秒くらい。 でも、山内さんが口を開くまで、すごく長く感じた。 「…もてるとおもう」 いやいや、絶対、この人わかってない。 もっと取り乱すべきところです。 「男としたことありますか?」 「ないよ、女性とならあるけど」 なんで、そんな笑っていられるんだろう。 なにを考えているんだ… 「意味、わかってます?」 山内さんは立ち上がって、ぼくのとなりに座った。 ぎゅうと胸がしめつけられる。 い、いいのかな… 「キス以上のことをする、てことであってる?」 …あってます。 ぼくは恐る恐る、手を伸ばす。 誘ってんだか、誘われてんだか。 三月から迷っていた。 距離を縮めるのがこわかった。 山内さんのやさしい目が、ぼくの感情を後押しする。 ほんとに?いいの?? 知りませんよ? ( 1.秋の巻 序章 へつづく☆ )
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