… 寒露 …

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病院で、幸は点滴に一時間つながれていた。 救急車で運ばれてすぐのとき、四十度をこえる熱があったが、いまは三十七度まで下がっている。 血の気の引いていた顔色が、ようやく赤味をおび汗ばんできた。 …色っぽい。 いやいや、不謹慎だから! さっきビンタをされたのを思い出した。 あれは、やましい内心がばれたんだな…反省。 でも、幸がおれの名前を読んだから、近づいただけ。 うん、そうそう! そうやって、おれは自己弁護をする。 だって、ほんとうに、下の名前でよばれたから、おどろいた。 夢、見てたのかなあ、おれの…そう考えると顔がゆるんでしまう。 どんな夢だったんだろう! …ビンタをするような、夢、って、考えたら、すてきな内容ではないよな。 ゆるんでいた顔が引き締まる、反省せねば… ああ、しかし、苦しそうな呼吸とか、もう、反則技だ! おれは病床の横で、邪心と戦いながら幸の点滴の落ちるのを見ていた。 さっきのキスで充分だろう、と自分に言い聞かせていると、カーテンがあいた。 看護師さんが顔をのぞかせる。 「笹本さん、気分はどうですか」 点滴の確認をしながら、幸の覚醒を待つ。 「…はい、悪寒が、なくなってるので、だいぶ、楽です」 看護師さんが、はっとして、口元に手をもっていったのをおれは見逃さない。 わかります!! それは正しい反応です! 笹本さんの寝起きはエロいですよね!
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