… 寒露 …

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しかし看護師さんは、すぐに職務を思い出したようで、てきぱきと点滴を外す。 「先生にもう一度みてもらいましょう、立てますか?」 トロンとした目のまま、幸はこくんと頷く。 さすが白衣の天使… もう小悪魔の誘惑には負けない! などと、白衣の天使を称賛していると、ベッドを出ようとした幸が、魅惑的な眼差しをおれに向ける。 「山内さん…なにか羽織るものとか、ないですか?」 幸は、Tシャツに下はパジャマ、とゆう、寝起き姿のままだった。 着替えを持ってくればよかった! いま気づいても遅い。 「…これで」 ワイシャツの上に着ていたカーディガンを渡す。 「気が利かなくて面目ない…」 幸は無言でおれのカーディガンを羽織り、だれに言うとでもなく「あったかい」とつぶやく。 一瞬、看護師さんと目線があう。 お互い、笑いたいのをこらえている。 「じゃあ、ついてきてください。お連れの方は待合室へお願いします」 でも、やっぱり、白衣の天使はさすがで、自分のやるべきことを全うする。 気が利かなくていいこともあるんだなあ、と残された病室で心置きなくにやにやした。
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