… 穀雨 …

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「話せば長くなるんだ、でも、おれは、加藤くんが幸の友だちでよかったとおもう」 「なにそれ、加藤も似たようなこと言ってた!」 それは嬉しいなあ、 「まあ、腹減っただろ、ご飯にしよう」 ルウがぽこぽこしてきたので、コンロの火を消す。 「…あとで食べる」 なんで、と言おうとした口を塞がれた。 カレーの匂いのする日常と、 幸のキスから引きずりだされる非日常。 その境目で、くらくらする。 強引に、でも優しく誘う舌と指に、思考が分解して、呼吸が不規則になる。 「雅さん、ここすきですよね」 「…っ」 「声出していいのに、加藤となに話してたんですか」 「…やきもち?」 精一杯の反撃。 おれはテーブルに身体をあずけていて、幸の表情は見えない。 背後の声は悩ましく、その身体の動きにあわせて問いかけてくる。 「雅さんは?ぼくにやいてくれないの?」 与えられているのか、 与えているのか。 幸から解放されたあと、 ようやく正面に見据えることができる。 「こんなに幸を独り占めしてるのに、やきもちをやく必要ないよ」 おれは幸の髪をさわりながら言う。 「もう少し欲張ってくれてもいいのに、」 不服そうに、幸は言った。 その姿に、おれが胸をわしづかみにされたことは言うまでもない。
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