… 寒露 …

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「どうりで、着心地がいいとおもった」 「おれが着てたから?」 「…うん、そうだね」 「笹本くん、棒読み」 「デザインシンプルなのに、よくみたら編み目がおしゃれ」 「おれのセンスがいいから」 「…さっすが」 「心がこもってないよ!」 エレベーター前でも攻防は続く。 「ちょうだい」 「だめ」 「お願い」 「やだ」 さすがに諦めたかな。 エレベーターに乗り、階数のボタンを押すと、幸が後ろから腕をまわしてくる。 身体が冷えていたぶん、幸の体温が気持ちいい。 首筋越しの声。 「どうしても欲しい」 甘めの声を出しても、だめ。 そう思ったのに、 「雅さん、おねがい…」 ひ、卑怯者ぉ 「名前呼んでもらうのに、四万すんの」 「安いもんでしょ」 「…大切にしろよ」 エレベーターの扉がひらく。 「ほんとにくれるの?」 「学内発表がんばったんだろ」 「すっげえ、がんばった」 「じゃあそのご褒美!」 「雅さん、ありがとう」 四万…でも、似合ってるし喜んでくれてるしいいか。 「幸さ、どんな発表したの?」
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