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数日後、和也の部屋のチャイムが鳴る。
だが、朝っぱらからの訪問者には心当たりが無い。
もっとも、既に8時は回っているので、早朝と言う訳では無い。
さては、実家から親が上京したか?
そんな予想を立てつつ、恐る恐る玄関のドアを開けると、立って居たのは薫だった。
彼女は、思い詰めた表情で和也を見つめていた。
瞳の奥で揺らめいている感情の揺れが、何となく伝わって来る。
「急に旅行に行かなくちゃならないんだけど、この子を預かってくれない?」
彼女から差し出されたのは、フウだった。
右手で首を持たれ、左手で尻を支えられたフウは、正に借りてきた猫。
和也は、既にフウとは仲良しだったから、快く引き受ける。
「随分と急なんだね。何処へ行くの?」
「北海道」
彼女は、短く単語だけで表現。
バカだった。その時に何かを感じれば良かった。と、和也は、のちに後悔する。
だが、その時は寝起きと言う事もあり、頭が働いてなかった。だから、旅行支度の彼女を、明るく見送ってしまった。
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