第1章

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「わ、わるい!」  突き飛ばすような形で離れるものの、踏み締めた右足首に再び痛みが走りジャクリーンはその場に座り込む。  一連の動きで更に痛めたのかズキズキと痛さが増しており、ジャクリーンは声も出ない。 「もしかして……足、捻りましたか? 見せてください」 「い、いや! 大丈夫、大丈夫です!」  足に触られたらたまったものではないと必死に拒絶し抵抗していると、ニコラスが大きくため息を漏らして頭を抱えた。 「そこまで言うならわかりました。とりあえず今日はここまでにしましょう。送りますよ」  そう言ってしゃがんで背を向けてくるニコラスに驚き、ジャクリーンは大きく首を横に振る。 「わ、私! 重いですし! 歩けますし!」  立ち上がって歩こうとするものの、痛いものは痛く目尻に涙を滲ませる。 「無理すると悪化しますよ。とは言え、せめて私の肩を使ってください」 「ごめんなさい、ありがとうございます」  「この状況はなんなんだ」と心の中で悪態をつきながら、立ち上がってニコラスの肩に手を置いた。 「すみません、手伝ってもらったのに怪我をさせてしまって……」 「いえ、ほとんど私の不注意ですし。お気になさらないでください」  ジャクリーンの歩く速さに合わせてゆっくりと進みつつも、しょんぼりした表情を浮かべるニコラス。何故だかいたたまれなくなってきたジャクリーンは懸命にニコラスの重荷にならないよう取り繕う。 「そ、そう言えば結婚を約束した幼なじみってどんな娘なんです?」  ジャクリーンがそう問いかけると、ニコラスはきょとんとした表情を浮かべて眼鏡を正した。 「えーっと、可愛くてカッコイイ子ですよ。思いがけない行動をするので目を放せないですけど」  嬉しそうにクスクスと笑いながら話すニコラスを見て、ジャクリーンは既視感を覚える。しかしそれは直ぐに霧散して、形にはならなかった。 「着きましたね。安静にしていてください」 「はい、すみません。ありがとうございました」  そうこうしている間にシトルイユに着いた二人はそうして別れる。
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