第1章

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「お菓子をくれなきゃイタズラしちゃうぞ! くれてもイタズラするけどね」  ジャック・オー・ランタンのお面を被ったジャクリーンはお菓子が詰め込まれた小袋をばら蒔いた。屋根の上を走りながら、地上から追いかけてくる警官たちの位置を確認する。  ジャクリーンが走る位置から警官たちのいる位置はだいぶ離れていた。右足首は痛むが、シャーロットのお陰で問題はない。頃合いを見て屋根を飛び降り、警官たちを撒く。  直ぐさまお面を脱いで小さく畳み、カツラを被った。手慣れた様子で洋服に着替えて、ハロウィンの怪人の衣装を鞄に詰める。月夜に照らされながら、何食わぬ顔で路地裏から道路に出た。 「うわっ」  その瞬間、腕を捕まれて壁際に押しやられ、何が起きたのか理解する前に壁に手を置かれてしまう。 「こんな夜中に何をしているんですか? ジャクリーン」  壁際に追いやった人物――ニコラスを見て、ジャクリーンは驚きに言葉を失った。脳内を危険信号が駆け巡るが、ニコラスが手をついているのが左側であり逃げる事が出来ない。  右足首の捻挫をこれほどまでに後悔した日はないだろう。  対面するニコラスは満面の笑みを浮かべているものの、何処か冷酷な印象を放っている。夜闇のせいなのか昼間と同じはずの笑顔に恐怖さえ感じていた。 「えーっと……散歩?」 「こんな夜更けに一人で? シトルイユから離れてますけど。それに、捻挫してますよね?」  その言葉を聞いた瞬間、ジャクリーンはニコラスが意図的に狙って左側に手を置いていることに気付く。 「あ、えーっと……シャーロット店長に配達を頼まれて!」 「だからこんな夜更けに一人で? ……ジャクリーン。そろそろ答え合わせ、しませんか?」  その宣告にジャクリーンは身体を強張らせ、息を飲んだ。頭の中を「やばい」と言う言葉が占領して打開策が浮かばない。  盗み見るようにニコラスを見れば、責め立てるような目が怖かった。心が勝手に「俺、終わった」と白旗さえ上げる。 「こ、答え合わせ?」  混乱と驚きに思考を停止した脳ではしらばっくれるという選択肢しか出てこない。上ずった声で聞き返すと、ニコラスの笑みに冷たさが増した。
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