第1章

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「今日一日、アナタと過ごしてみて気づきました。良くできてますけど……これ、カツラですよね?」  そう言って昼間と同じように髪を一束掴んで口づけてみせる。心臓がやかましくてニコラスの声が上手く聞き取れない。 「それに抱きつかれてわかりましたけど、女性にしては些か肉付きが固いです。よってアナタは男、ですね」  にっこり微笑まれ、ジャクリーンは何も言えずに目を泳がせた。 「シトルイユにいないはずの男……昼間の子供を助ける際の動き、それにこの状況。私はアナタがハロウィンの怪人だと考えます」  「違う」とは言えない雰囲気に、ジャクリーンは涙さえ滲ませる。力ずくで逃げようと突き飛ばそうとするものの、体勢が悪いのか力が入らない。そうしている間にもニコラスの顔が近づいてきて、正体を知られるのとは別の危機感を覚えた。 「辞めろ、ニコラ! お前は昔から……」  顔を背けて思わず漏らした言葉にジャクリーンは自分の口を疑う。 『ねぇ、約束よ! ジャック。私がハロウィンの怪人を捕まえたら――』  不意に脳裏を駆け巡る記憶――赤毛が印象的な幼い女の子が顔を近づけて言い寄っていた。 「今更思い出したんですね、ジャック。約束を果たそうと来てみれば息子のはずの跡継ぎは娘になっているし、約束はすっかり忘れられているし、怪我でへまして捕まるかもしれないのに無理はするし……胆が冷えました。自重してください」 「いやいやいや……昔はもっと女の子だったろうよ! なんなのその口調とか態度とか!」  壁から手を放し、頭を抱えるニコラス――ニコラに、ジャクリーン――ジャックは逃げることも忘れて声を荒上げる。 「入った女子校で男役をしていたらこうなりました。これでも直そうとしているんですよ? それにその文句はそっくりそのままお返しします」 「はぁ? 仕方ねぇじゃん。これが家訓というかなんつーか。というか確かめ方が変すぎるんだよ」  ずれた眼鏡を正しながらため息を漏らすニコラを指差しながらジャックは照れとは違った意味で顔を赤く染めた。 「私は女の子に恋してたのかと本気で悩んだんですからね。今日一日の行動は全てハロウィンの怪人云々というより、アナタが男なのか女なのか確かめたかっただけです」  頬を膨らませつつも、男前にキリッとした表情で言い切るニコラ。ジャックはオーバーリアクションで頭を抱えると、大きくため息を漏らした。
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