第1章

14/14
前へ
/19ページ
次へ
「髪に口づけるとか抱きつくとかじゃなくてもっとやりようがあったろうよ」 「探ってるのがバレないようにしたまでです。あと私を男だと思い込んでいたようなので反応も見ていました。それに抱きついてきたのはアナタからで、不可抗力ですから」  言い返すことが出来ないジャックはぐぬぬと悔しげに歯を食いしばる。そんな表情を見てニコラが微笑ましそうに笑い声を漏らすと、ジャックにキッと睨みつけられた。 「ニコラ嬢! こんなところで何をなさっているんです?」  ニコラに気付いた二人組の警官が駆け寄ってくる。逃げなければならないことを思い出したジャックが逃げようとするものの、ニコラに腕を捕まれてしまった。早鐘のように心臓が鳴り響く。 「友人に会ったので家まで送ろうと話していたところです。ハロウィンの怪人は見つかりましたか?」 「いいえ、今回も逃げられました。ご友人の自宅まで我々も同行しますか?」 「大丈夫です。アナタがたは父に報告に向かってください」  ジャックは笑顔で対応するニコラに訝しげな表情を向けるが、警官の一人と目が合ってしまい取り繕うように笑顔を返した。 「わかりました。夜更けですからニコラ嬢もご友人もお気をつけください」  警官の二人はニコラに頭を下げると来た道を戻っていく。 「……なんで」 「アナタを捕まえるのは私です。それにアナタが捕まったら元も子もないでしょう? 酷い人ですよね。そんなに私が嫌いですか」  ため息混じりにジャックに近くと、ニコラは満面の笑みを浮かべた。その意図を図りかねてジャックが首を傾げた瞬間、噛みつくように首筋にキスを落とす。 「ぬぁあ゛っ舐めやがったな!」  突然のことに叫び声を上げて首筋を抑えるジャックの目には涙が滲んでいた。 「言っておきますけど、私は諦めませんから。アナタが言うように私、昔から強引でしつこいですよ」  満月の青白い光を浴び、微笑むその姿は言葉で表せないほどに美しい。しかし同時にその言葉は息を飲むほどに恐ろしかった。 「さぁ、帰りますよ」  ジャックの手を引いてニコラはシトルイユへと向かって歩き出す。野生の動物のようにニコラを威嚇しながらジャックもニコラに続いた。しかし、ジャックの警戒をすり抜けてニコラは手首に口付ける。 「あーそう言うの止めろっ」  夜の帳にジャックの叫び声とニコラの笑い声だけが響いていた。 →To be continued...?
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加